正岡子規『散策集』吟行の道をたどろう! 石手川堤へ③
『散策集』吟行ルート
- 9月20日 石手・道後方面へ … 柳原極堂とともに
- 9月21日 御幸寺山麓へ … 柳原極堂、中村愛松、大島梅屋とともに
- 10月2日 中の川、石手川堤へ … 子規ひとりで
- 10月6日 道後湯之町へ … 夏目漱石とともに
- 10月7日 雄郡・今出・余戸へ … 子規ひとりで村上霽月を訪れる
前回は、子規が浦屋雲林先生の住居前で詠んだ句のところまで紹介しました。続きを見てみましょうか。
いよいよ石手川堤に到着ですね。
まずはここまでの吟行ルートを地図で確認しましょう。
はい。
ここまででもかなりの距離を歩いていますね。
そうですね。二人の叔父を訪ねた際に休憩をしてはいるでしょうけどね。ところで、地図中の二つの星印は何だと思いますか?
どちらも伊予鉄道の線路上にありますね。横河原線に関わるものですか?
その通りです。子規がこの日それぞれの場所を通ったかは分かりませんが、明治25年の横河原線敷設当時に建設され、今でも現役の建造物があるのです。
本当ですか!教えてください。
※ 注目!伊予鉄道横河原線敷設当時に建設された現役の橋
明治25(1892)年完成と考えられる愛媛県内最古の煉瓦橋です。平成15(2003)年に松山市が景観形成重要建造物に認定しました。また、平成24(2012)年には土木学会選奨土木遺産にも認定されています。
上の方に捻れた部分があることに気付きましたか?これは鉄道敷設の際、道路と直角に線路を建設すると真っ直ぐに通すことができないため、あえて捻れ部分を作っています。つまり、この道路は横河原線敷設以前からあった道なのです。
全く知りませんでした。
明治25(1892)年に完成した橋長35.8mのプラットトラス橋で、現役の鉄道橋としては日本最古です。平成24(2012)年には煉瓦橋とともに土木学会選奨土木遺産に認定されました。
この橋は何度も見ていますけど、そんなに古い橋だとは知りませんでした。
さあ、『散策集』の話に戻りましょう。石手川堤に到着した子規は、さらに歩を進めます。
石手川堤上を散策しながら子規が詠んだ句
土手にそふて西すること二三町、焼場のわたりより監獄署の裏に出て薬師の西より再び八軒家に帰る
代るがわる 礫うちたる 木の実哉
牛の群れて草喰ひ居る傍に曼珠沙花の夥〔おびただ〕しく咲き出でしを
ひよつと葉は 牛が食ふたか 曼珠沙花
四本五本 はてはものうし 曼珠沙花
草むらや 土手ある限り 曼珠沙花
砂川や 浅瀬に魚の 肌寒し
花痩せぬ 秋にわづらふ 野撫子
馬士去て 鵙鳴て土手の 寂しさよ
石塔の 沈めるも見えて 秋の水
豊年や 稲の穂がくれ 雀泣く
秋風や 焼場のあとの 卵塔場
庄屋殿の 棺行くなり 稲の中
『子規遺稿 散策集』 ※ 注釈は筆者が加筆
たくさん句を詠んでいますね!曼珠沙花を詠んだ句が多いですが、この風景は今も昔も変わりませんね。
そうですね。
子規が石手川の土手を西へ進んだことはわかりました。「焼場のわたり」と「監獄署」と「薬師」が分かりません。
下にまとめましたから、見てください。
- 「焼場のわたり」… 焼場は火葬場のことですから、「火葬場へ向かう道」と訳せばいいでしょうか。
- 「監獄署」 … これは松山刑務所のことです。昭和40年代後半に現在の場所〔東温市〕に移転するまで、現在の県病院のところが刑務所でした。
- 「薬師」 … 松山市泉町にある薬師寺のことです。
ありがとうございます。「馬士」とは何ですか?
「馬士」は「ばし」と読み、馬に荷を引かせて運ぶことを職業とする人たちのことを言います。当時、立花橋の近くに馬市場がありましたから、牛を連れて来ていた人がいたのでしょうね。
なるほど。では「卵塔場」は何でしょう?
「卵塔場」というのは墓地のことです。当時は火葬場や墓地が石手川付近にあったのですね。
なるほど。ありがとうございました。
では、『散策集』の続きを見ていきましょう。
薬師寺で詠んだ句
薬師二句
我見しより 久しきひよんの 木実哉
寺清水 西瓜も見えず 秋老いぬ
『子規遺稿 散策集』 ※ 注釈は筆者が加筆
薬師寺は真言宗寺院で、このお寺も加藤嘉明が建立したと言われています。句に読まれた語句についてまとめましたので見てください。
はい。
- 「ひよん」… イスノキのこと。丸い形の実は虫の巣で、固い殻に小さな孔があいて、吹くと「ヒョウ」となることから「ヒョンの木」とも言われています。
- 「寺清水」… かつて薬師寺にあった冷泉のことです。「松山市泉町」という地名はこの冷泉に由来しています。
薬師寺付近の写真を撮影しましたので見てみましょうか。「ひよん」の木は現在も境内にあり、その側には句碑が立てられています。
薬師寺を出た子規は再び八軒家に戻り、愚陀仏庵へ戻りました。以上で終わります。
ありがとうございました。